様々な家族のカタチに配慮した居住支援の再構築

1 はじめに
家族機能の低下やコミュニティーの崩壊が新たな社会的弱者を創出させ、更にはこれまで「隠されていた」生活困難層を露呈させることとなった。
従来、生活に困窮した者の救済、支援は「家族」が最終的なセーフティネットとして、その大部分を担ってきた。しかし、1970年代以降の世帯の多様化現象、いわゆる三世代家族の減少、晩婚化を主要因とする高齢/若年単独世帯の増大、ライフスタイルの変化に伴う離婚/非婚世帯の増加、これらを背景として顕在化してきた少子高齢化の進行は、セーフティネットとしての家族機能を弱体化させ、ひいては「標準家族」をベースとした社会保障制度を解体の危機に追いやる結果となった。
新たに出現・露出してきた生活困難層の抱える問題は多様かつ複合的である。そのため、既存の制度規定から排除される、また、これまで提供されてきた画一的な支援メニューでは問題解決が望めない層が拡大してきている。
本稿で取り上げる、離婚を原因とする生別母子世帯もまた、世帯の多様化、家族機能の低下に伴い、露出してきた生活困難層と言える。彼女らが抱える最大の困難は経済力の低さである。2006年の全国母子世帯等調査(全母調)によると、その平均所得は213万円、これは一般世帯の約3分の1でしかない。経済格差をテーマとした文献の中には「世帯類型別に見ると母子世帯は経済的最下層に位置し、その半数が貧困状態にある」という驚くべき記述もあるほどである 。
諸外国においても、母子世帯は多様な生活問題、例えば、子育て・労働・収入上の困難、社会的ネットワークからの排除、DV(ドメスティックバイオレンス)被害の経験などを抱え、社会的サポートを必要とする層として認識されている。とりわけ、安定した住宅の確保は、生活の中心であり、労働や社会的ネットワークの要となるものである。しかし、公的住宅支援 が不十分なわが国において、経済的弱者と称される母子世帯が良質な住宅を確保することは難しい。
本稿では、子を抱え、貧困に喘ぐ母子世帯がどのような居住環境下にあり、またどのような住宅ニーズを抱えているのかということを中心に論じ、彼女らのニーズに合致した支援方策の在り方について考えてみたい。

2 母子世帯の質的変化と居住不安定化する母子世帯
直近のデータによると、母子世帯総数は戦後最高の1,517,000世帯であると報告されている。1952年、貧困化する母子世帯の生活実態把握を目的として「全母調」が開始されたが、その当時の母子世帯の多くは夫の戦死を原因とする、いわゆる戦争未亡人であった。その後、女性のライフスタイル・意識変革などによって離婚率が上昇し、それに伴って生別母子の割合も1952年の15%から2006年の90%へと増大するに至った。
こうした事情を背景として母子世帯の住宅問題も大きく変化することとなる。前出の調査によると、1950年代に6割を保持していた母子世帯の持家率が、2006年には3割にまで低下している。これは、持家率の高い死別母子世帯が減少し、持家率の低い生別母子世帯が増加してきたことによる影響が大きい。2006年の全母調によると、死別母子の持家率は64.0%、生別母子の持家率は31.7%と格段の違いが見られる。ではなぜ、死別と生別ではこのような相違が生じるのか?
死別母子については、夫の死後もそのまま、結婚時の住宅を引き継ぎ、住み続けることが可能であったり、保険金を利用して新たに持家を取得したりといった可能性がある。死別割合の高かった時期には、母子世帯が持家を保有することはそれほど難しいことではなかった。しかし、生別母子が持家を取得することはそれほど容易ではないようだ。
葛西(2005a)では、生別母子の7割強が離婚を機に転居していることを明らかにしている 。その理由は、夫の暴力や借金などで緊急に避難を要するケースや、「持家の名義が夫であるため」、「持家に留まってもローンが支払えない」、あるいは「安価な賃貸住宅に借り替えた」など多岐に渡る。
 離婚前後の経済的・精神的に不安定な時期に、生別母子は住宅の確保を迫られることとなるのであるが、この段階において、十分な貯蓄、安定した職を得ている者はそう多くない。
 緊急に住宅を必要とする母子に対しては母子生活支援施設が供給されるが、「施設」に対する抵抗感からか、これを積極的に利用しようとする母子は少ない。このほか、公営住宅や転宅資金(転居に際する費用の貸付金)などは緊急利用がほぼ不可能な状況にある。
 したがって、多くの場合、わずかな貯蓄を切り崩す、あるいは借金をするなどして民間の借家を確保することとなる。しかし、慌てて確保した借家が、ニーズに合わず、短期間の内に別の借家へ移るといった非合理な状況に陥る者も少なくない。これは、不動産業者に、条件(保証人がいない等)と支払限度額(頭金、家賃)を指定し、物件を十分に吟味するまもなく契約したが、「壁が崩れた」、「虫がわく」、「雨漏りする」などといった低質な住宅を押しつけられ、我慢できずに飛び出すというのが真相のようだ。特に、アトピー、喘息などアレルギーの子を持つ世帯にとって「日当たりがよい」、「清潔」といった条件は欠かせない。しかし、限られた予算内で、条件に見合う物件が確保できず、子の症状が悪化したというケースもしばしば耳にする。
 他方、住宅確保資金の捻出が困難なため、やむをえず、実家やそのほかの親類宅、友人宅に仮住まいをする母子も多い。葛西の調査(2005a)では、離婚前に家を出る母子の6割が、離婚直後に家を出る母子の4割が親類や友人宅に身を寄せていたが、その多くが半年程度でそこから移動していた。確かに、私的な資源を活かしてそこに済み続ける母子もいるが、それはほんの一部である 。
「出戻り」という言葉に代表されるように、離婚した女性に対する世間の目は冷たく、できれば実家に頼りたくないという事情もあるだろう。また、格差の固定化、つまり親元も困窮している場合や、親の離婚・再婚によって帰る場所がないなど、最終的なセーフティネットとしての家族機能が解体してしまっている場合もある。
これらの結果、民間借家に居住する母子世帯の居住水準は極めて低いものとなる。葛西(2007)では、
大阪市内の民間借家に居住する母子世帯の4割強が最低居住水準以下の生活を強いられており、他方でその住居費負担は月収の約4割となっている事実を明らかにした。所得の低い母子世帯にとって、家計の4割という住居費支払がいかに負担の重いものであるか、容易に推測できるであろう。
 いずれにしても、生別母子の多くは、緊急な住宅の確保に迫られ、多大な困難に直面するも、現行の公的支援の下では、もっぱら自助努力によってそれに対処せざるをえないのが現状なのである。

3 立地限定階層としての母子世帯
 しかしながら、母子世帯の住生活問題は、単に安価な住宅の提供だけで解決するものではない。葛西(2005b)では、母子世帯の多くが、居住地を選択する際に、豊富な雇用機会、安価な住宅の入手可能性といった条件よりも「子どもの環境維持」、「私的育児支援の入手」といった条件に重きを置いている事実を明らかにした。特に、小・中学生の子を持つ母親は「親の離婚と転校という環境の激変に子どもが対応できないのではないか」といった懸念から、極力子どもを転校させないよう配慮する傾向がある。
 また、就学前の子どもを持つ母親からは、「保育所の送迎のため、就労時間が限定される」や「子どもが熱を出したりするたびに早退、欠勤を余技なくされる」といった不満がよく聞かれる。育児・仕事を両立させる母にとって、私的な育児支援は欠かせない。大抵の場合、大部分の育児を保育所に委ね、不足な部分を私的資源で補完するなどして、労働継続の努力をしているのが実情である。中には、私的育児支援よりもまず、保育所定員数オーバーのため、公的な保育の確保すらままならないといった事例もある。保育先が確保できずに無職となり、職探しに出向いても保育先が確保できていないことを理由に就業不可能とされる。逆に、保育先を確保しようとしても、就業先が不確定なため、保育所の利用は難しい。就職面接の際に「緊急時にお子さんの面倒を見てくれる方が近所にいますか?」といった質問を受けたというケースは非常に多い。以上のことから、幼子を抱え、家計を支える母にとって、私的育児支援がどれほど重要なものかが理解できるであろう。
 とはいえ母子世帯の母親は、育児の全てを第三者に委ねているわけではない。彼女らは「仕事と育児を円滑にするため」「子どもに関する不測の事態に敏速に対応するため」という理由から、職場を、居宅や育児施設に近接した地域に求める傾向がある。葛西の前出(2005b)の調査では、半数の回答者が、職場までの距離・交通手段を「15分圏内」、「徒歩、あるいは自転車」としていた。
以上のことから、多くの場合、母子世帯は、子どもの学区や人的ネットワークを優先して住宅を確保し、まず子育て環境を整備した上で、就労先を探すといったプロセスを辿るが、当然のことながら、希望する地域に好条件の職場、あるいは物件がないといったリスクが予測される。
母子世帯の公営住宅に対するニーズは高い。しかし、「希望する地域に団地がない」あるいは「何度応募しても当たらない」などというように、それは、立地的にも量的にも彼女らの限定的な要求に合致しにくくなっているのが実情である。
育児環境を整備しなければ就業できず、また育児環境を優先したがために、生活が安定せず、さらには、低質な居住環境を強いられる。こういった悪循環が母子世帯を待ち受けているのである。

4 ドメスティックバイオレンス(DV)被害者に対する配慮
 母子世帯の住宅問題を考える上で、DV被害によって母子になる者の実態を看過することはできない。
DVは、夫婦喧嘩では片付けられない、最悪の場合には、殺人事件につながる可能性もある深刻な問題である。内閣府の発表によるとDV相談件数は年々増加傾向にあり、2006年には、58,528件もの相談が寄せられたという。このような状況を鑑みて2001年配偶者からの暴力防止及び被害者の保護に関する法律(以下DV防止法とする)が施行された。DV被害者救済支援は基本的に、①相談、②一時保護、③自立支援の3つのファクターから成る。相談、保護については、一定整備されてきたものの、自立支援については、具体案は明記されず既存の施策・制度の有効活用という点にとどまっている 。
被害者は、加害者からの執拗な監視、経済的締め付け、そして、「皆殺しにする」、「家に火をつける」といった脅迫のなか、精神的にも経済的にも逼迫した状況で逃避することとなる。
一時保護施設の利用期間は基本的に2週間程度であり、被害者は短期間のうちに次の行き場を確保しなくてはならない。「この時期に公営住宅が利用できたら」と漏らす支援者は多い。確かに、公営住宅の空き家(ステップハウス)を被害者が自立するまでの一定期間有料で提供している自治体もあるが、葛西の調査(2008)によると、それらの定員は満たされていないのが実態である 。主な理由は、「支援に対する周知度が低い」こと、また、利用者からは「永住できない上に、料金が課せられる。行政訪問などアフターケアがほとんどなく不安。不便な地域で自立の準備もできない」という内容の不満が聞かれた。結局のところ、わずかでも住宅確保資金の捻出が可能な場合は、民間借家へ、それが不可能な場合には母子生活支援施設などの中間施設へというのが、DV被害者の現実的な落ち着き先となる。
前出の調査(2008)では、DVを受けた母子が、一般の母子世帯の居住ニーズとは全く逆に、つまり、安全の確保のために子を転校させ、実家や友人と縁を切り、元居住地から遠く離れた土地勘のない地域において住宅を確保せざるをえないといった実情を浮き彫りにした。特に被害者(子を含む)の多くは、暴力の後遺症から鬱、PTSDなどの精神的問題を抱えている場合がほとんどである。十分な支援も得られず、人的ネットワークが断絶された地域において、子を抱え、自立の道を模索する女性の姿は、まさに「DV被害者難民」といえるだろう。

5 さいごに
 「住まい」の分野におけるセーフティネットの重要性が盛んに論じられるようになってきた。
2006年には「住生活基本法」が、2007年には「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(住宅セーフティネット法)が相次いで施行され、その焦点の一つに「世帯の多様化に伴う居住ニーズ多様化への対応」が挙げられている。
世帯の多様化が進行する現状において、家族の形に係わらず、個々が安心して子を育てられる住環境を整備していくことは、なによりもまず優先させなければならない課題といえる。しかし、「子どもを育成する家庭」という言葉から連想されるのは、いまだ「標準/一般家族」ではないだろうか。
 次世代を担う子を養育する世帯の中には、本稿で取り上げた母子世帯、また、同じ母子世帯の中でもまったく違った居住問題を抱えるDV被害者、そのほか父子世帯なども存在する。こういった世帯それぞれのニーズに配慮した支援構築がなされなければならない。
これまで見てきたように、母子世帯、DV被害者の住宅問題の解決には、緊急かつ、非常に限定的な居住地ニーズに対応できるような支援が必要である。これらの点を勘案すると、既存の公営住宅供給による支援のみでは限界があるといわざるをえないであろう。こういった世帯が、子育てしやすい地域で良質かつアフォーダブルな住宅を確保するためには何が必要か。例えば、立地がより自由に選択できるという利点を持つ民間賃貸住宅への家賃補助制度というのも、1つの可能性であろう。そのほか、民間支援団体の中には、母子世帯同士の育児支援を前提とした、母子世帯向け共同住宅を運営しているところもある 。こういった取組みを参考にしつつ、さまざまな家族の形に配慮した、新たな住宅支援策のあり方が検討される必要があるだろう。

(参考文献)
1) 橘木俊詔『格差社会 何が問題なのか』岩波新書、2006
2)葛西リサ、塩崎賢明、堀田祐三子「母子世帯の住宅確保の実態と問題に関する研究」日本建築学会計画系論文集、第588号、pp147-152、2005年a
3)葛西リサ、大泉英次「母子世帯の居住実態とその地域格差に関する研究―大阪府及び大阪市の事例調査を中心とし
て―」住宅総合研究財団研究論文集No32、pp261-271、2005年b
4)葛西リサ「ドメスティックバイオレンス(DV)被害者の住宅確保の困難性」社会政策学会誌、第20号 2008年7月掲載予定
5)葛西リサ「母子世帯の居住水準と住居費の状況に関する研究―大阪府及び大阪市の事例調査を中心に―」都市住宅学、第59号、pp15-20 2007年

日本住宅協会「住宅」57号, pp.36-39, 2008-06

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