2012年全国シェルターシンポジウム DV被害女性と居住の権利 報告

 ウィメンズネット神戸では、DV被害女性と居住の権利と題した分科会を実施した。
神戸女子大学上野勝代氏は、これまで、DV被害者の問題については、法学、心理学、医学、福祉学等、あらゆる分野において議論の蓄積があるものの、建築や住居など住生活を扱う分野においては、ほとんど取り上げられることがなかったという点が強調された。その上で、なぜ、DV被害女性にとって居住空間や住まいの保障が必要であるのか。この点について、国連ハビタット宣言における住まい=基本的人権ということを根拠に、女性相談所の一時保護施設の空間が如何なるものであるのか、そしてその問題を中心にお話しを頂いた。まず、上野氏は、売春防止法を根拠として設立された婦人(女性)相談所においてDV被害者を保護することの難しさを指摘する。昭和30年に成立した同法の目的は、売春を行う恐れのある女性の更生を目指した施設であるがゆえに、空間的な貧しさ、規則の厳格化など、被害者の生活しづらさを招いているのである。婦人相談所の設置要綱を見ると、①利用者一人当たりの居住有効面積は3.3㎡(約2畳)以上とされており、②居室には各人別に寝具等を収納し得る押入れその他の設備のほか、私物棚 等を設けること、③ 室は、日照、採光、換気、採暖等について十分に考慮された構造とすること、④ 室の主要な出入口は、避難上有効な空地、共同廊下又は広間に直面して設けることなどということが記されている程度だ。よって、今でも、相部屋を採用している施設は少なくない。また、子を同伴する被害者が多いが、子どもの遊び場が設置されていないという問題も指摘された。もちろん、外出は禁止され、このほか、食事時間や就寝時間、飲食場所の規定やおやつ嗜好品の制限、テレビ、娯楽なども制限されている。単身女性を対象にした施設であり、かつ、プライバシーを配慮した空間になっていないため、同伴児童の性別や年齢についての制限がある。上野氏は、公的保護施設の改善に向けて既存の法制度の改正あるいは新たな法律を作ることの必要性を説く。但し、現行法で支援を継続するならば、少なくとも、施設の設置要綱の改正が不可欠であると訴えた。
 続いて、大阪市立大学の葛西リサ氏からは、事前に実施した全国の民間シェルターのアンケート調査報告があった。全国的に民間シェルターは経済的に困窮しているが、公的な補助金はそれほど多くないという状況だ。また、その額等は、シェルターが設置されている都道府県あるいは市町村の方針によって大きく異なる。9割の団体が行政と委託契約を締結しつつ被害者支援を行っているが、多くが行政→民間シェルターへの委託というルートでなければ委託費は支払われないと回答している。半分の団体が委託率(全保護件数に占める委託の割合)4割未満だ。これは、行政の保護から漏れ落ち、民間に直接救済を求める被害者やDV法規定外(例えば、親子間暴力被害者など)の被害者を引受けることにより委託率が低下するためである。続いて、シェルターのルールに関して、嗜好品の許可については、たばこのみを許可しているところが最も多い。シェルターからの外出については、「ケースにより許可」が圧倒的に多く、自由にできるという団体は、25%程度だった。通勤の許可については、6割以上が不可、約3割がケースによる(新たな職場なら許可)である。日本のようにDV被害者への理解が浅い社会において、シェルターの所在を明らかにすることはリスクが大きく、それが故に、被害者の生活は制限せざるを得ないという。被害者の住宅確保支援について、公、民、当事者による協議の場があるという回答は、4割、被害者の処遇について民間の意見が反映されるという回答は、5割強だった。そして、76%の団体が、被害者の処遇について当事者の意見が反映されると回答している。住宅の確保の際に、生活保護が利用できるという団体は半数存在するが、残る半数は「福祉を担当する市町村による」や「施設入所が優先される」と回答していた。保証人の確保については、8割が困難と回答している。そして8割が、保証人の確保方法について、保証人協会の利用を挙げた。団体の多くが被害者の住宅確保支援について困難を感じており、行政支援では難しい部分をステップハウスの確保等、民間独自の努力により補っているという状況が明らかになった。葛西氏からは、被害者の円滑な住宅確保に向けて、必要な場合には積極的な生活保護の利用が望まれることや、自治体が運営するステップハウスについてソフト面の支援を充実させること、このほか、中間施設への入所の検討など、住宅支援の選択肢を増やすことの重要性が挙げられた。
横浜市こども青少年局こども家庭課の山根孝道氏からは、DV被害者先進地域と称される神奈川方式、そして横浜市の取り組みについてお話しを頂いた。全国的に見て、被害者の自立に向けての社会資源の窓口は多様化(住民票のある地域、シェルターの所在する地、自立する地、被害者が最初に相談に飛び込んだ地など)しており、確固たるルールがない場合、その調整に多大な労力や時間がかかる。横浜市においては、被害者がSOSを求めた段階で、早急に対応ができるよう、支援の合理化が図られている。まず、神奈川県内にて被害者が救済を求めた場合、住民票の所在にかかわらず、最初に相談を受けた窓口(市区町村)が自立までの支援の実施機関となることがポイントだ。具体的な流れとしては、①実施機関から都道府県に保護の依頼をし、②都道府県が被害者の状態に応じた保護先を確定する。③被害者の保護先が決定した段階で、実施機関、当事者、保護先のスタッフとともに、被害者の自立に向けてのケースカンファレンスが開催され、④その方針に沿って、保護先のスタッフ、実施機関の担当者が支援する。⑤生活保護によるアパート設定が妥当とされれば、住宅の確保を行い、⑥退所という運びとなる。アパート設定が難しい被害者については、中間施設の利用あるいは、引き続き保護施設に入所することとなる。但し、保護期間が2週間を超えた場合には、委託費支給は終了し、実施機関より生活保護が支給されるルールがある。横浜市において、中間施設とは、精神的、肉体的にも回復時間がかかる被害者がゆったりと過ごす場として位置づけられており、労働等が強制されることはない。山根氏からは、公民の良好な協同体制により質の高い支援が提供できていることや、民間力を担保するために、恒常的な財政支援が欠かせないという点が強調された。
こういった日本の状況を受けて、葛西氏と上野氏からデンマークのDV被害者施策と民間シェルターの役割やその空間の豊かさについて報告がなされた。デンマークにおいては、民間シェルターに対する手厚い財政支援が保障されている。よって、専門性を有する有償スタッフが支援の主な担い手である。いずれのシェルターにおいても、子どもの遊び場が確保されており、遊びを通して、子どもの回復を図るという手法が採用されている。驚くべきことに、シェルターの住所はホームページ上で公開されている。そしてシェルターに入所中であっても、外出や出勤、通学が可能であり、「普通の暮らし」が保障されているのだ。両氏は、この実現のためには、DVはいかなる場合であっても許される行為ではないこと、被害者を社会全体で救済するという国民の合意がとれていることが前提になければならないという。それによりシェルターが地域の重要な社会資源として位置づけられ、警察、地域住民と密に連携しつつ、地域において被害者を支えることができているのだと。そして、DV被害者の心の回復のためには、普通の暮らしを保障する施設空間の在り方は重要であり、そして何よりも、その一歩を踏み出すための住まいの確保支援は不可欠であることが強調された。(なお、これらの報告内容の一部が、2013年秋、ドメス出版から出版される予定である。)

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