デンマークにおけるシングルマザーを取り巻く環境

不幸な日本の母子世帯

わが国で母子世帯の増加が社会問題視される背景には、彼女らの深刻な貧困問題があります。彼女らは結婚時に主婦であったり、就労していてもそれがパート労働であったりという割合が高く、よって離婚後に安定職を確保することが難しいという現実があります。複数のパートを掛け持ちして日々の生活費を捻出するというケースも少なくありません。

また、彼女らの多くは離婚を機に結婚時の家を出るのですが、住宅政策が不十分なわが国の住宅市場のもとでは、経済力の低い母子世帯は住宅を確保できずに親類宅に身を寄せる、あるいは、低質かつ悪条件の住宅しか確保できないという問題に直面します。中には、友人、知人宅を転々としている居住貧困母子も一定存在します。こういった母子世帯の貧困問題は、福祉大国デンマークではどうなっているのでしょうか。以下で簡単に紹介していきたいと思います。

 

デンマークの母子世帯

<低所得を補うさまざまな制度>

デンマークでは、離婚による母子世帯が全体の9割を占めています。また母子世帯の割合は全有子世帯の17・6%と日本(6%)よりも随分高くなっています。しかし、デンマークにおいてさえ、母子世帯の経済力は脆弱で、彼女らの所得は2人親世帯の約4割、父子世帯の約8割程度でしかありません。これは、デンマークでは共働きが一般的であり、離婚により片働きになるためにおのずと所得も半減してしまうこと、これに加えて、やはり男女の賃金格差が少なからず影響していると考えられます。

しかし、子育て世帯には有子家族手当、普通児童手当が、ひとり親世帯には追加児童手当が整備されています。また、子どもにかかる教育費は無償である上、18歳以上の全ての学生を対象とした生活支援金(SU)も支給されます。更に、ひとり親家庭の子どもについては2倍のSUが支払われるなど、優遇措置があります。これでも生活に困窮する場合には、生活扶助や家賃補助を受給することができるのです。こういった手厚い保障により、日本のような貧困の再生産といった問題が深刻化していないのでしょう。

<一極集中で根本的な住宅不足>

しかし、驚くべきことに、デンマークでは離婚がもたらす最大の困難として住宅問題が挙げられています。家賃補助制度が整備されているデンマークでなぜ住宅問題が発生するのか、と不思議に思われるかもしれません。これは雇用機会などが豊富なコペンハーゲン市への一極集中が深刻化しており、物件そのものが確保できないという事情があるためです。

デンマークにおいても離婚を機に家を出るのはやはり女性が多いのです。十分な公的支援があっても物件がないというデンマークの実態は、空き家があってもそれを確保するお金がないという日本の状況とは全く質が違いますが、いずれにしても、母子世帯の多くが住宅確保の困難に直面することとなるようです。もちろん、郊外に移動することで、住宅の確保は容易にはなります。しかし、子どもの成育環境の維持や職場へのアクセスなど居住地を変えることで、生活そのものが成り立たなくなるといった問題も発生します。デンマークでは、コミューン(市)が非営利住宅の4分の1を確保し、それを住宅弱者に供給するというルールが確立されてはいますが、多くの入居希望者がいるためになかなか利用できないのが実態です。

 

ひとり親家庭のための住宅財団

<住居確保の支援>

 住宅に困窮するひとり親を救済することを目的として活動しているのが、1966年にジャーナリストであり国会議員であった女性によって設立されたひとり親家庭のための住宅財団(Boligfonden)です。

同財団の利用者は85%が女性、つまり母子世帯であり、かつ移民が多いのが特徴です。事業内容は、離婚・生活相談、カウンセリング、生活資金や教育資金の貸付、一時的な住まい及び学生ひとり親向けの住宅の提供など多岐にわたります。

 同財団では、離婚により住まいを失ったひとり親のための一時的な住まいをコペンハーゲン市内に43戸確保しています。集合住宅のうちの1戸を借り上げ、それらを離婚により住まいを失ったひとり親に市場価格で貸すのです。経済的に困窮しているひとり親に対しては、コミューンから家賃補助が支給されるため、財団の負担はありません。

希望する住宅に空きがあれば即入居できますが、通常、登録から入居までは平均3~6ヶ月程度を要します。この間、実家や友人宅に身を寄せるなどして居場所を確保するひとり親が多いとのことです。住戸のある地域には無償ボランティアが1名ずつ配置されており、入居者の様子を確認するために定期的な訪問活動を実施しています。

ただし、この住宅は安定居住への移行期にのみ利用できるものであり、次の行き先が確保できれば退去する条件となっています。

 

<ひとり親への教育機会の保障>

日本では、貧しいひとり親が仕事から離れ、学生として教育を受けることを肯定的に捉える風潮はありません。むしろそういったひとり親には「まず働け」「贅沢だ」というネガティブな視線が注がれることでしょう。しかし、デンマークではそうではないようです。

同財団へのインタビューでは「ひとり親であっても、どういった状況であっても、本人が教育を受けたいと希望すれば、それを支援します。ひとり親への平等な教育機会の実現は本財団の誇るべき理念の1つでもあります」という力強い言葉が聞かれました。学生となった場合でも、手厚い公的支援によって日々の生活は保障されます。また、同財団では、学生となったひとり親に対して良質な住宅を提供したり、教科書などの購入にあてる教育資金を貸し付けたりしつつ、彼女・彼らの学生生活を支援するというのです。これらの支援を利用したひとり親の中には、大学卒業後、さらに大学院へ進み、学際的な分野で活躍するといったケースもあるようです。

こういったデンマークのひとり親を取り巻く環境は、日々の生活のために不安定な就労にしがみつき、自分の能力を開花させる機会を断たれたまま、貧困スパイラルに飲み込まれてしまうわが国のそれとは大きくかけ離れていると言えるでしょう。

 

おわりに

 日本のひとり親の貧困問題は日々深刻化しているにもかかわらず、効果的な対策がとられないまま、制度の改悪のみが進行しているのが実態です。ひとり親の問題を語る時、常に「自分勝手に離婚して貧困になるのは仕方ない」というような自己責任論が付きまといます。しかし、離婚が特別なものではなくなった昨今、こういった議論に終始していては解決策が見いだせないのは言うまでもありません。いかなる境遇に置かれていても、自己の選択が尊重され、再起を図ることができるデンマークの社会からわが国が学ぶべき点は多いのではないでしょうか。

(福祉のひろば 2011年2月号より)

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