〇社会福祉法人として母子世帯向けシェアハウスを開設する
ペアレンティングホーム合掌苑は、JR成瀬駅から徒歩15分、神奈川中央バス停「市営住宅入口」から徒歩3分に位置する。
同ハウスの特徴は、第1に、母体が社会福祉法人であるという点、第2に、就労と住まいを一体的に供給する試みという点であろう。
全国で展開されている母子世帯向けシェアハウスの多くが、営利事業として展開されている。その中にあって、なぜ、社会福祉法人が母子世帯向けシェアハウスを開設したのか。

写真1 ペアレンティングホーム合掌苑の外観(筆者撮影)
この疑問について、企画を担当した同法人戦略推進本部の杉本靖氏は「当法人は、横浜市と町田市にて介護施設を運営しています。ご存知の通り、介護業界は、慢性的な人材不足に陥っています。特に、女性職員の場合には出産を機に退職というケースが非常に多く、育児支援の不足が介護離れにつながっているという課題がありました。そこで、かねてより、当法人では、6時間勤務制度を設けて、8時から14時、13時から19時の2コースに分けて都合のよい時間に働ける仕組みを作ったり、施設内に託児室を併設し、時間外保育を整備したりして子どものいる職員に対して働きやすい環境を提示してきました。このほか、子どもの看護休暇制度なども充実しています。ただ、こういった制度があっても、やはり、母子世帯となると、就労と育児の両立は厳しそうだなと。もちろん、実家の手助けがあるお母さん方はよいのですが、そうでないお母さんはとてもしんどい。そこを何とか手助けできないかという思いからシェアハウスという発想に至ったのです。どういう境遇でも安心して働ける環境を整備しておくことで、幅広く質の高い人材を確保できるのではないか。そう期待しています。」と語ってくれた。
どのようなハウスにしていくか。より母子世帯のニーズに即したハウスを創設するために、同法人森一成理事長のリーダーシップのもと、母子世帯向けシェアハウスの草分け的存在でもある、ペアレンティングホームに足繁く通い、現地見学、企画者との面談を重ねたという。
〇良質な住宅を低家賃で提供
ハウスの開設にあたっては、同法人が運営する施設から徒歩2分の社員寮があった土地に木造2階建てを新築した。設計は、母子世帯向けシェアハウスを熟知するペアレンティングホームの秋山怜史氏が手掛けた。玄関を入ると、左手にレストランの厨房と見紛うほどの豊かなシステムキッチンがあり、ホールを抜けると、広々としたリビングダイニングにつながる。このほか、一階は、便所が1カ所と風呂が2カ所、洗濯室など贅沢な共有スペースに割かれている。プライベート空間は11畳(25㎡)の個室が5部屋(1階に1室、2階に4室)、それぞれ壁一面に備え付けられた豊かな収納スペース、バルコニー付きである。個室空間としての2階部分にも、便所が2カ所設置されている。

図面1 ペアレンティングホーム合掌苑 1階図面(事業者提供資料より転載)

図面2 ペアレンティングホーム合掌苑 2階図面(事業者提供資料より転載)
図面や写真からもわかるように、かなり良質なハードで、筆者も内見をしながら思わず、「私も住みたい!」と宣言したほどである。このような恵まれた居住環境で、家賃はなんと、共益費込で45000円。家賃の支出が難しい世帯には、家賃補助の導入も考えているとのこと。更に、合掌苑では、母子世帯に限らず、子どものいる職員すべてに、子一人当たり15000円の子ども手当を準備している。「これらの制度をうまく活用すれば、母子世帯であっても、生活は随分安定すると思います」と杉本氏。
加えて、破格な家賃設定は、「福利厚生の一環だからできること。採算は全く考えていません」というから驚きである。

写真2 充実したキッチン(筆者撮影)

写真3 共有空間としてのリビング(筆者撮影)
〇 ハウスの今後
同ハウスは、2016年7月に開設されたが、まだ、入居者はいない。課題は、なんといっても地域の保育所不足である。施設内の託児室は、通常の保育所の預かり時間が終わった後(夜8時、場合によっては、10時頃まで)に利用できるスポット的な役割を果たすものである。そのため、「当法人の仕事内容に興味をもって頂き、ハウスへの入居希望があっても、保育所が見つからないということで、就職につながらない」という課題に直面しているのだという。
合掌苑では、新卒者の採用以外に、子を持つ女性向けの採用募集を秋口に行っている。
これは、11月ごろに内定を出し、1~2月から始まる保育所募集に間に合わせるために、作った仕組みなのだという。但し、「母子世帯の中には、すぐにでも働きたい、働かなくてはならない人もいる。11月から翌年の4月の保育所入所まで、待てない人もいるのが現状」と杉本氏。そこで、今後は、施設内の託児室をフル稼働させる方向も視野に入れているとのこと。

写真4 広々とした居室(筆者撮影)

写真5 豊かな収納スペース(筆者撮影)
入居者が集まれば、ペアレンティングホームのシステムである、週に1回のチャイルドケアと夕食の提供も始まる。チャイルドケアとは、ペアレンティングホームの研修を受けたスタッフが子どもたちの遊び相手や学習指導を行うというものである。その時間帯には、母親は在宅していなければならないが、家事や子どもの世話から少し離れ、自分だけの時間を持つことができる。
「当法人の仕事に興味がある方はどしどし問い合わせをいただきたい。もちろん小学校に通うお子さんをお持ちのお母さんの入居も歓迎です」と杉本氏。
就労と住まい、そしてそこにケアが付随した母子世帯向けシェアハウス。今後、入居者が決まれば、シリーズ化してそこでの生活をお伝えしていきたい。
2016年9月2日取材完了
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お問い合わせ
社会福祉法人合掌苑(就労支援担当:加藤・杉本)
住所:東京都町田市金森東3-4-23
電話:042-799-1130
e-mail: saiyou@gsen.or.jp