コロナ禍が露呈させた日本の住宅政策の脆弱性 ひとり親へのアンケート調査から(住宅会議109号6月発行予定原稿) 

1 はじめに

「食事は子どもには1日2食にしてもらい、私は1日一食。払うお金がもうない。なぜ、日本はこんなに理不尽なの。なぜ困っている人を更に困らせるの?」

戦時中かと思わせるこの切実な内容は、2020年の現代、ある母子家庭の母親が書いたものである。

4月6日の緊急事態宣言ののち、小学校の閉鎖、続いて、保育所の閉園が発表された。この時、筆者が特に、気になったのは、子どもの預け先がなく、働けなくなるひとり親の実情である。

命を守るという大義名分のもと、平時ですら、育児と仕事の両立に困難を抱えるひとり親に対して、何の補償もせぬまま保育や教育の機会だけをとじる方法が、多くの親子を更なる貧困に陥れるトリガーになることは、容易に推測ができた。

 育児を優先せざるを得ない親たちは、自宅待機という選択しかなくなるだろう。しかも、ひとり親の多くが補償のない非正規職についている。つまり、自宅待機は、たいていの場合減収あるいは失職をともなう。

減収、失職し、生活が困窮すれば、家賃の支払いはどうなるのか。平時、ひとり親の多くが、民間の賃貸住宅に依存している。ただでさえ、住居費負担は高く、減収が続けば、その支払いもすぐに難しくなるだろう。また、日本の住宅政策は、そもそも家賃補助という仕組みを持ってはいない(新たな住宅セーフティネット制度はあるがほぼ機能していない)。生活保護の柔軟な活用か、住居確保給付金の利用が現実的な解決策となるだろうが、これも自治体によって運用に格差がでることが想像された。

この非常事態に、子を抱え、住まいを失うという恐怖を誰にも経験させてはならない。このことを、強く訴えるためには、コロナ禍の中、ひとり親がどういった住生活問題を抱えているのか。筆者は、その実態を「見える化」する必要があると感じ、2020年4月30日、緊急インターネット調査[i]に踏み切った。本稿は、その内容を速報するものである。

 本調査へは、回答者473名のうち、269名(56.8%)が自由記述を寄せている。本稿では、こういった実際の声をすくい上げながら、コロナ禍下のひとり親の苦悩に迫りたい。

2 世帯、子どもの状況

 本調査では、9割を超える回答者が、母子世帯であった。残る数%が父子、そして、プレシングル(マザー)である。プレシングルマザーとは、離婚が成立する前に、別居に踏み切ったケースを指し、事実上はひとり親であるにも関わらず、制度の対象から漏れる世帯を指す。その中には、暴力や子への虐待、モラルハラスメントや悪意の遺棄など、やむを得ない事情で家を出ているケースが相当数含まれる。それにも拘わらず、法的にひとり親とは認められず、児童扶養手当の対象ではなく、それゆえ控除の対象にもならない。

プレシングルマザーからは「食費、光熱費、コロナ予防対策衛生用品の出費が重なって、家賃が負担になってきました。正式に離婚できていないため、手当もありません。とても心配です。」など、生活に窮する声が挙がっていた。

回答者の半数以上が子1人、3割強が子2人と回答している。就学状況は、末子の約半数が小学校、続いて未就学児童となっている。更に、長子については、未就学児、小学校の割合が約半数、中学校以上が約半数となっていた。

当然のことながら、同じひとり親でも、有する子の就学状況(年齢)により抱える悩みは異なる。幼い子を抱える世帯からは、子の預け先がないために働けないという苦悩が、小学校中学年以上の子を有する世帯からは、閉じこもりの生活からくる食費・水光熱費や想定外の支出、例えば、オンライン学習環境整備のための出費が家計を大きく圧迫しているという意見が多く寄せられていた。

3 仕事と家計

本調査では、正社員が38.2%、このほか、1割が無職、残る半数は非正規職であった。無職の中には、新型コロナの影響で辞職に追い込まれたケースも含まれている。

自由記述欄には、未就学児を有する世帯から、子の預け先がなくなったことによる自宅待機、シフト減、最終的には、辞職という回答が多く確認された。

具体的には、「休校を機に預け先がなく、仕事にも行けず退職しか方法はなくなり、家賃などの支払い等は待ってもらっていますが、2週間後、ちゃんとご飯を食べられているのか今、とても不安な状態です。」や「会社に休んで良いと言われましたが休業補償も無く今月末の給料は無い状態になる(以下削除)」などの記載が確認されている。

また、最近の収入の状況については、15万円以上20万円未満という回答が最も多く、20万円未満が全体の約7割を占める。ここに児童扶養手当等が含まれたとしても、当然、生活はギリギリであろう。

 では、新型コロナウィルスにより所得は減ったのか。アンケートでは、49.9%が減ったと回答している。変化なしは45%であるが、自由記述と併せて読むと、ここには、来月からあるいは再来月から減ることが確実などといった層も含まれている。

 更に、「変化なし」45%についても以下の理由から注意をして扱う必要がある。

 自由記述では、「子どものアルバイトが減った」ことへの苦悩が散見された。つまり、平時は、子がアルバイトをしてなんとか家計を助けていたが、それができなくなり、回答者(親)の収入は変わらなくとも、世帯収入が激減したということである。

 続いて、収入は変わらなくとも、支出が増大したというケースである。自由記述には、自宅待機となり、食費や水光熱費が増大したという回答が多く寄せられていた。これ以外にも、学習のためのオンライン環境整備、更には、マスクやアルコール、手洗い等の衛生商品の高騰により、家計が圧迫されているという声が挙がっていた。

 具体の事例を以下に列挙する(自由記述は本人が特定されないよう一部改訂編集している)。

・「娘がアルバイトにも行けなくなり、年200万円ほどの学費支払いに困っている。(以下省略)。」

・「上の子が、アルバイトをして家計を助けてくれていましたが、そのアルバイトも完全にストップしてしまいました。(中略)とにかく自分が稼がなければ終わります。」

・「私は以前と変わらず出勤しており、収入は変わらないが、子どもたち●人(人数削除)で毎日留守番生活を続けているため生活費(食費、光熱費等)としての出費が増えた。子どもたちのバイトが減らされているためそちらでの収入は減っている」

・「大学生の子供がコロナの影響でアルバイトが出来ず、家にいます。食費、光熱費、水道代がかかり支払いなど大変に困ってます。アルバイトなので、給料の保証はありません」

・「収入は減ってはいませんが、子供達が休校の為支出が明らかに増えています。食費、おやつ代、水道光熱費、(中略)その為家賃も支払いが遅れてしまいました。」

・「預金が少ないので、あと数ヶ月しかもちません。大変不安です。給付金も休校中、休園中の食費や水道光熱費の赤字分にきえます。最悪一家心中しかないのかと考えてしまうこともあります…」

4 住まいへの影響

 住宅の所有関係は、民間賃貸住宅が55.8%と圧倒的に高い割合を占めている。うち、家賃支払いのないものは62名(13.1%)である。持家であっても、ローン支払いがある場合には、支払いが滞れば賃貸同様に住み続けは難しくなる。よって、持家のローンの有無についてもたずねた。持家は全体の2割程度、うち半数がローン返済ありと回答している。

 また、コロナ禍以降の家賃負担の変化について「非常に苦しくなったと」いう回答が26.7%、そこに「やや苦しい」30.1%を併せると、6割近くが「苦しくなった」と回答している(図1)。

図1 家賃の負担感

 更に、住居費支払いのないものを除き(持家や生活保護による住居支払い、仮住まい等)、住宅所有関係と負担感をクロスした結果、持家であってもローンがある場合には、苦しいという回答が半数を超えている(表1)。賃貸住宅の中でも、民間賃貸とUR住宅では、「負担が高い」という回答が大きな割合を占める。他方で、比較的家賃額の安い公営住宅では、「負担感は変わらない」という回答が半数以上を占めていた。

 なお、調査時点で、住居費の支払い方法については、52.5%が給与で支払えているとしているが、残る半数は、預金の切り崩しや借金などで急場を凌いでいる(表2)。また、既に滞納しているものが、29名(7%)存在する。加えて、その他については、近い将来給与から支払うことが困難となる旨の具体の記載が見られた。

表1 住宅所有関係別住居費負担感

注;家賃支払いなし不明等除く

表2 家賃の支払い方法(アンケート回答時点)

注;家賃支払いなし、不明等除く

5.住生活の不安

最後に、住生活の不安の内容を尋ねた。473名のうち、最も多かったのが、自分が感染した際の子どものことである。自由記述欄でも、頼る先がなく、自分が感染してしまった時に、子どもがどうなるのか。「いっそ、子どもが(一緒に)感染してくれたら一緒に病院にいけるのかなど不安が巡る」と窮迫した回答も確認されている。

なお、併せて、自由記述欄には、収入が減らなくても、支出が増えている。家賃は節約ができない。家を失わないために、他を削るしかないのだという意見が多く挙がっていた。

本調査では、住宅の部屋数についてもたずねている。なお、世帯人員は、プライバシー等の問題から、子どもの人数の把握のみにとどめた。結果、子を抱え、1部屋で生活するという事例が、43件(9.1%)確認されている。パーセンテージは少ないとはいえ、この過酷な状況を見逃すことはできない。この狭小なスペースの中、子どもがどのようにして、自宅学習をこなすことができるだろうか。隔離の問題もさることながら、狭小なスペースに閉じこもる環境は相当なストレスが伴うことが容易に想定される。

図2 新型コロナによる住生活への影響

6.命を守るための政策を

 アンケートの自由記述欄には、「死」や「心中」など、ネガティブなキーワードが散見され、回答者の切迫した実情がひしひしと伝わってきた。

住宅政策の無策が、緊急時に弱き者へとしわ寄せがくることは、過去、幾度となく、災害の現場で指摘されてきたことである。

しかし、ここへきても、同じ過ちが繰り返されてしまったことに、筆者は怒りを禁じえない。

ひとり親の命を守るために、即自的には、早急な現金給付が求められる。既に、自治体ベースでは、明石市や横浜市など複数の市区町村がひとり親への現金給付を決めている。目下、国会でも児童扶養手当の増額等が検討されているが、これを早急に始動すべきである。

 なお、長期的視座に立てば、やはり、地に足のついた住宅政策を国として保障していくほかない。住居確保給付金など、緊急支援について、一見有効にも思えるが、減収や失職者が対象となっており、支出増大による家計の変化など、重要な視点は見逃されている。

回答欄にびっしりと書き込まれた生活の苦しさ、不安、絶望は、本来、声なき声としてかき消されてしまう可能性が高い。しかし、これを知ってしまったものの責任として、読者の皆様にも実情を広く発信していただき、誰も取りこぼさない、命を守るための、制度の必要性をともに訴えていただきたい。


[i]調査の実施にあたっては、SNS上で広くアンケート情報を発信し、無記名での協力を求めた。2020年5月15日時点で、回答数は、484名である。但し、うち、11名は、ひとり親のカテゴリーには当てはまらなかったため対象外とした。よって、集計対象は、473名である。アンケートの目的は、新型コロナウィルスの蔓延による住生活の不安を即時的に明らかにすることであり、それが叶う手法として、ネットリサーチを選定した。

但し、ネットリサーチ(ウェブアンケート調査)では、虚偽回答等も一定含まれることが想定され、信頼性の面で課題を孕んでいることは言うまでもない。よって、本調査では、それを前提としつつも、多くの自由回答(269件、56.8%)を分析することで、当事者の実情に接近することを試みた。

回答は全国から寄せられ、特に多かったのが、首都圏からの回答(東京143件、神奈川県46件、埼玉県32件、千葉県29件)である。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中