研究内容

家族のカタチや関係、そして人々のライフスタイルの変化による新たな住生活問題の発生のメカニズムと実態の把握、それに対応した支援の在り方等を提案しています。

テーマ01

○ひとり親の住生活問題研究 (住宅総合研究財団研究助成2004年、2006年)

本プロジェクトでは、ひとり親を対象にその住生活実態の把握や問題が生じるメカニズムについて検討しています。
1970年代以降、離婚率は上昇傾向にあり、子を有して離婚する離別ひとり親も急増しています。OECDの報告では、日本のひとり親、とりわけ母子世帯の貧困率は世界的に見ても高く、その改善が求められているところです。日本では、公的住宅供給が不十分であるため、支払能力が住宅の質に直結するという実情があります。そのため、貧困なひとり親の住宅事情は一般世帯と比較して低位にあります。阪神淡路大震災の際、ある市の母子世帯の住宅被害は生活保護受給者よりも高かったということが明らかになっています。低質な住宅にもかかわらず、その住居費負担(月収に占める家賃の割合)は高く、家賃支払いが彼女らの生活を圧迫する要因にもなっています。
ひとり親の貧困を助長させる要因となっているのが、育児負担の問題です。ひとり親に限らず、共働き世帯などでも、延長、夜間保育、病児・病後児保育など育児ニーズは多様化しています。とりわけ、ひとりで育児を担う母子世帯や父子世帯にとって育児支援の不備は死活問題となります。このため、実家やその近くに居を構えるなどして生活環境を整備するひとり親は非常に多いのです。但し、その地域に条件のよい職があるかは不明です。
父子世帯の場合には、結婚時にフルタイムの職に就いている割合が高いのですが、ひとり親となり、育児のために失職するというケースは少なくありません。また、育児支援を求めて実家に移動しても、再就職が困難となることもあるのです。
父子世帯の持家率は一般世帯並みに高いのですが、失職し、ローン負担が急増し、「売却を検討しても、負債が残ってしまうために身動きできない」、生活に困窮しても、「持ち家を所有しているために、生活保護が受給できない」など、持ち家を所有しているが故に生じる問題もあるのです。
現在は、デンマークや米国におけるひとり親の住まいと生活の関係について調査研究を進めています。

写真1

ひとり親支援団体主催のクリスマスパーティの様子

写真2デンマークにおけるひとり親を支援する事務所の様子

テーマ02

問題解決型集住プロジェクト(旧第一住宅建設協会研究助成2009年、科学研究費基盤研究C2010年)

親や親類など私的な育児支援者からどの程度の支援が得られるのか。潜在的な育児資源がひとり親の就労環境を左右します。安定した職についていても、「育児支援がないためにそれが継続できない」。育児支援を求めて転居したが、「条件のよい職が見つからない」。更には、「子どもが新たな環境になじめない」という声は非常に多く聞かれます。こういった人々に対して、所得保障や就労支援を新たに提供するよりも、それぞれが望む地域において住み続けられる支援を構築する方が合理的ではないでしょうか。ひとり親に対する支援は、住まい、育児、就労、所得保障などそれぞれ個別に行われているきらいがあります。支援の主体やその根拠が違っても、生活者から見れば、それは一体となっているのであり、それぞれは互いに強く影響しあっているのです。よって、そういった要素に横串を指すような総合的な支援が必要なのではないかと考えられます。

本プロジェクトでは、ひとり親の育児と就労の両立を可能とする、「問題解決型集住」(以下シェア居住)の可能性を検討しています。これは、生活上の問題を抱える個人が集住し、それを補填しあうことで問題を解決するという住まい方です。

本プロジェクトでは、これまで、国内における①ひとり親が自主的にはじめた自発型、②NPO主導型、③企業提案型、④企業福利厚生型の4つのタイプの事例を見てきました。居住者の組み合わせも、ひとり親のみのシェア、多世代シェア、高齢者×ひとり親のマッチングなど多様です。こういった事例からは、子が自宅でひとりにならなくてすむ、孤食させずにすむなど、安心感についてのメリットが多く聞かれます。

確かに、経済力の低いひとり親を対象に集住モデルを構築するためには問題や課題が多いのですが、但し、アイデアによっては、可能性があるのではないかと考えています。

持家に独居する高齢者宅にひとり親をマッチングさせるなども1つかもしれません。また、ローンを抱える父子世帯の持家にてシェアメイトを募るという可能性もあるでしょう。勿論、空き家が増大している昨今、そういったストックを活用していく方法も視野に入れつつ、日本型問題解決型集住モデルを構築していきたいと考えています。

写真㈬

デンマークにおけるエコタウンの食堂

写真㈭

デンマークにおけるエコタウンにある子どもの遊び場

写真㈫

デンマークにおける学生ひとり親シェアハウスの内部の様子

テーマ03

DV被害者の生活再建に関する研究(住宅総合研究財団研究助成2009、2012)

本プロジェクトでは、DV被害者の住宅確保の問題の可視化、そういった問題に対する支援を全国的に検討しています。

2001年、配偶者からの暴力防止及び被害者の保護に関する法律(DV法)が施行されました。これによって、被害者の相談や保護は行政の責務となりました。しかし、保護後の住宅確保支援については、具体案が法律に明記されておらず、そのため、住まいに困窮する被害者が多く存在することが明らかになっています。母子生活支援施設などの中間施設の活用や、生活保護、あるいは自費による民間借家の確保が現実的な退所先となります。しかし生活に困窮しているが、生活保護の利用が難しく、施設環境にも馴染まないなどのため、行き場がなく、結婚時の住まいに戻るといった被害者も少なからず存在します。DV被害者向け公営住宅優先入居制度もありますが、これは、応募したからといって必ず入居できる性格のものではありません。

自治体の中には、独自の支援を構築して、こういった問題に対峙しているケースもあります。例えば、鳥取県においては県独自の支援として、特定の民間シェルターを退所した被害者に対して、家賃補助制度を創設しています。これにより、支援の現場では、被害者の自立について、選択肢が増え、当事者の実情に沿った支援が可能となっている点が評価されます。また、千葉県の野田市においてもDV被害者向け家賃補助制度が存在します。このほか、神奈川県では、被害者の相談から保護、自立まで、どの機関が、どの時点で、何を支援するのかという役割分担がなされており、極めて合理的な支援がなされています。住宅確保についても生活保護の活用が積極的に検討されます。このほか、福岡県久留米市においても、被害者向けの公営住宅を一定数確保するなど、先駆的な支援を展開しています。

また、本プロジェクトが現在取り組んでいるのは、施設退所後の被害者の孤立を防ぐアフターケアの提案です。DV問題の特殊性からほとんどの被害者がそれまでの人間関係や慣れ親しんだコミュニティを喪失します。危険を回避するために、新たな土地での生活再建を余技なくされます。被害者の多くはDVの後遺症から、多大なダメージを受けており、回復に時間を要するケースがほとんどです。また、同伴する子が学校や新たな環境になじめないという声も聞かれます。こういった被害者が地域生活に移行した後も、孤立せずに生活してくための「切れ目のない」ケアは欠かせないと考えます。本プロジェクトでは、国内外の事例を検討しつつ、被害者にとって望ましいトータルな支援を提案していきます。

写真6

デンマークのシェルターのベッドルーム

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デンマークシェルターの子どもの遊び場1

写真8

デンマークシェルターの子どもの遊び場2

写真9

デンマークシェルター内にある子どものためのタペストリー

写真10

デンマークシェルター内に貼られたDV防止ポスター