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「ケア相互補完型集住」シェアカルテ11 都心の一戸建てをシェアハウスに転用?多様な関係機関と緩やかに連携しながらシングルマザーの住生活を保障するcodonaHAUS 浜田山の実践

〇シングルマザーのシングルマザーによるシングルマザーのためのハウス

JR浜田山駅を降りて線路を超えるとすぐに目を見張るような高級住宅街が出現。地図を確認しながら先に進むと、今度は、テニスコートや緑豊かな公園が歩道の両側を飾る。そんな楽しい道のりを歩くこと10分。渋谷まで30分とは思えないほど自然豊かなロケーションの只中にコドナハウスは位置する。

写真1 コドナハウスの周辺環境 (写真提供:http://www.codonahaus.jp/より転載)

 

ハウスの運営をする潟沼恵代表は、二人のお子さんを育てる正真正銘のシングルマザー。長く不動産業に携わる中で、シングルマザーの住宅確保の問題に胸を痛めてこられたのだとか。

新生活に向けて、住宅を確保しようにも資金もなければ保証人もいない。何より、シングルマザーというだけで審査からはじかれてしまう。更に、その日常は、「育児に仕事に家事に、その他の雑務。とにかく綱渡り状態で息切れしながらなんとかこなしている状態」とご自身の過去とオーバーラップさせながら力強く語る。

 この状況を何とか改善させたい。そんな熱い思いを胸にたどり着いたのが、シングルマザー向けシェアハウスという構想だった。

写真2 左コドナハウスの外観 右ハウス内の庭(写真提供:オシャレオモシロフドウサンメディア ひつじ不動産 http://www.hituji.jp/)

 

ハードの提供のみでは、シングルマザーの自立は難しい。当初から「生活支援付きハウス」というコンセプトは出来上がっていた。オーナー自ら居住者に寄り添い生活サポートをしたい。これを実現するため、ハウスの立地は潟沼代表が住む、杉並区周辺に拘る必要があった。

しかし、物件の確保には、思いのほか、苦戦を強いられた。

「非血縁関係にある複数の子連れ世帯が共同生活をする。しかも、その入居者は定期的に入れ替わる」という難解なコンセプトに拒否反応を示す家主がほとんどだったのだ。断られること百数件。結果的には、女性問題や子育て支援に深い理解のある現ハウスオーナーに出会うことができた。そこからとんとん拍子に話が進み、20149月、ようやくコドナハウス浜田山が誕生した。

〇コドナハウス浜田山の生活支援とは

 ハウスは木造2階建ての一軒家を転用したもので、定員は4世帯。現在、2世帯がそこで生活をしている。玄関を入ると、すぐ右手に4.5畳の居室、玄関ホールを進むと広々としたLDK、風呂、トイレなどの共用部につながる。2階に上がると廊下伝いに、6畳、5.2畳、6畳の3部屋が並ぶという間取りである。

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図1 コドナハウスの間取り(図面提供http://www.codonahaus.jp/より転載)

家賃は69000円から77000円。これに共益費33000円が加算される。この共益費のうち10000円は、生活支援費に充てられる。

コドナハウス浜田山では、火曜と水曜の週2回、18時から21時までの間、シッターサービスと夕食の提供を行っている。シッター役を買って出てくれたのは、なんと潟沼代表の友人。病児保育も経験したことがあるシッターのプロだ。

シングルマザーの一日はとてもあわただしい。日中忙しく働き、退社後は子どもの世話に追われてあっという間に一日が終わる。資格取得など、キャリアアップをしたくてもそのための時間は全く残されていないのが実際のところ。また、保育所のお迎えなどの制限から多くのシングルマザーが定時で退社する。それを当然のことと割り切れず、むしろ、うしろめたさを感じている者も少なくないのだとか。

「とにかく、週に2日の6時間は、何も気にすることなく、思いっきり、仕事や勉強、そしてリフレッシュに充ててほしい。心に余裕がでれば、子育てはもっと楽しくなります」と自信たっぷりの潟沼代表。

写真3 コドナハウスの居室(写真提供:オシャレオモシロフドウサンメディア ひつじ不動産 http://www.hituji.jp/)

 更に、日々の忙しさから子どもの宿題などを丁寧にチェックできないというシングルマザーの切迫した声に応えようと、週1回、現役大学生による学習支援も開始した。

そんな細かなニーズに配慮できるのも、代表自身が当事者として様々な苦労を乗り越えてきたからこそ。月1回のハウスミーティングのほか、定期的にハウスを訪れ、入居者の声に耳を傾ける。過去のこと、これからのこと。様々な不安を抱える居住者たちの姉御的存在なのである。

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写真4 コドナハウスのリビング(写真提供:http://www.codonahaus.jp/より転載)

 

〇問題を察知して社会資源につなげる機能

 現在の入居者も含め、この2年間で7世帯がコドナハウスを利用した。その中には、臨月の妊婦もいたというから驚きである。問い合わせは全国から寄せられ、時には外国からというものもある。離婚に向けての準備段階での相談も多く、これから仕事を探すというケースも決して珍しいものではない。更に、次の住宅を探すまでの短期間「ショートステイをしたい」という要望にも積極的に応じている。

 その中で、入居基準は、「将来の明確なビジョンを持っていること。」と潟沼代表。

 入居希望者とは必ずじっくりと面談を行う。「シェアハウスという住まいについて、どの程度理解をされているのか。簡単に入居できるからという理由だけでは、共同生活は難しいのです。また、ハウスを利用してどのようにステップアップをしようと考えておられるのか。そこを重視しています」とのこと。

実際、入居者の多くが正社員としての職を確保し、自立のめどをつけて退去していった。ハウスの周辺に退去するケースが多く、代表自ら退去先のお世話をすることもあるのだとか。

もう一つコドナハウスの大きな役割を担っているのが、ご近所に住む民生委員さん。なんといってもシングルマザー向けのシェアハウス。入居後に様々な問題が生じることなんてことはつきものである。決して隠していたわけではなく、入居者自身も気づいていなかった自分自身のコト、子どもたちのコト。例えば、DV問題などもそれにあたるだろう。丁寧に話を聞くうちに、行政支援につなげる必要性のある案件と気づくことも。そんな時、ご近所に住む民生委員さんが本領を発揮、複雑に絡み合った問題を切り分け、行政窓口につなげてくれるのだとか。

写真4 時として子どもたちの遊び場となるリビング(写真提供:オシャレオモシロフドウサンメディア ひつじ不動産 http://www.hituji.jp/)

 もちろん、深刻な問題ばかりではなく、母子世帯が受けられるはずの手当のアレコレなど、複雑すぎて個人ではキャッチできない情報を即座に提案してくれるというから心強い。

「私自身、当事者ですが、受けられる支援メニューもその基準もその時々でめまぐるしく変化していますし、入居者さんによっては抱えておられる事情は大きく異なります。そのたびに役所に走るというのも、仕事を持つ私としては難しい。そこを、うまく、穏やかに、まとめてくださる。とても力強いサポーターです。」と潟沼代表。

 このほか、杉並区役所、近隣の学校、社会福祉協議会、子ども家庭センター、保健センターなど、問題が生じた時に即座に対応できるネットワークを有している点も大きな強みである。

近年、空き家も増大し、それを活用した社会貢献型のハウスもどんどん出現している。但し、そこに求められるのは、ハードを提供する不動産関係主体のみならず、入居者の実情を知り、その課題を差配する福祉関係主体の存在である。コドナハウス浜田山の仕組みは、まさにそれを地で行っているという点に大きな特徴があると言える。

 

       写真5 ハロウィン時期のコドナハウス。(筆者撮影)

 筆者が訪れたのは10月の下旬。ハウス内は、ハロウィンのオーナメント一色だ。それらすべて居住者さんがしつらえたのだとか。今から乳幼児を連れてお出かけするという彼女。照れ臭そうに「全部100均の材料で作ったんですよ!」と笑う。抱っこ紐やベビーカーの準備をするその傍らで心配そうに「気を付けるのよ、いってらっしゃい。」と声をかける潟沼代表。こういった些細なやり取りも、母子のみの生活では味わえない貴重なものだろう。シングルマザーだからこそできる支援。今後も、その動向に注目していきたい。

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〇お問い合わせ

codona PROJECT(主宰 潟沼恵)

Address: 〒168-0073 東京都杉並区下高井戸5丁目(東急井の頭線 浜田山駅より徒歩10分)

E-mail: info@codonahaus.jp

HP: http://www.codonahaus.jp/index.html

※ ひつじ不動産オシャレオモシロフドウサンメディアでも特集されています!https://www.hituji.jp/comret/info/tokyo/suginami/codona-haus/special