母子世帯の就労環境をいかに住まいの視点から整備するか-ケアを補完しあうシェア居住の可能性-

■ひとり親の育児問題と貧困
1980年代以降、離婚率は上昇傾向にあり、それに伴い、母子世帯も一貫して増加傾向にある。母子世帯は結婚時に専業主婦である割合が高く、キャリアのない彼女らが離婚や死別を機に条件のよい職を獲得することは難しい。これに育児負担が加わることで、その就労条件はより一層悪くなるという実情がある。世帯類型別に見ても、母子世帯の貧困率は極めて高い 。母子世帯の平均年収は223万円であり、それは一般世帯の約3分の1程度でしかない(厚生労働省、2011)。
いずれにしても、ひとりで家計を支える母子世帯にとって、育児、家事と就労の両立は不可避である。母子世帯には、保育にかかわる公的な優遇措置がある。しかし、保育所の開所時間に準ずると、早朝出勤や残業が柔軟にこなせず職業選択の幅が狭まるという問題がある。また、たいていの保育所は病児の対応が難しい。「病気の子を自宅に残し出勤した」という経験は母子世帯からよく聞かれる。これは、欠勤が続きリストラの対象となれば、生活が成り立たないという切迫した事情があるからだ。このような問題を回避しようと、親と同居や近居をするケースは少なくないが、その育児環境は特定の支援者に支えられた、極めて脆弱なものである。育児を担ってくれていた親が他界した、要介護になったなどのために生活が一変したという体験はよく聞かれる。加えて、私的な育児支援を求めて、それまでの生活圏を変えることは負担が大きい。残念ながら、頼る実家などがない場合には、より一層の困難が予測される。このように、個々人の得られる条件によって就労環境が左右される現状では、ひとり親の経済的安定は実現しえない。
では、それぞれが、都合のよい場所で安定的な育児支援が得られるように整備するにはどうしたらいいか。近年では、訪問型の育児サービスを専門にこなすNPOや企業が増加してきてはいるが、費用を負担できる母子世帯は少ない。ならば、同様の悩みや課題を抱える世帯同士が集住し、ケアの部分を補完しあえばいいのではないか?こういった発想から、わが国においても、母子世帯向けシェアハウス の事例が確認され始めている。本稿では、母子世帯を対象としたシェアハウスの事例について紹介し、そのメリットやこの住まい方を広く一般に広げていく上での課題について概略する。

■母子世帯同士でケアを補完する住まい
シェアハウスP(仮名)は、貸住宅管理業者Aにより企図された母子世帯向けシェアハウスであり、2012年6月に入居がスタートした。神奈川県川崎市に位置するこの建物は医療ビルのワンフロアをリノベーション(改修)したもので、8世帯が入居可能である。駅から徒歩3分という好立地に加え、近接して小学校、学童保育などがある。個人の専有部分は6畳の個室のみであるが、20畳のリビングと遊具も置ける広々としたベランダが窮屈さを感じさせない。洗濯機や家電製品は元から備え付けられており、これらも共有だ。ここでは、週2回(17時~21時)チャイルドケアと素材にこだわった夕食が提供される。こういった費用も含めて家賃は90,000円から92,000円と決して安くはない。では、入居者は何を期待して同ハウスに入所しているのか。業者Aによると、同じ生活課題をもつ人が助けあえる住環境に魅力を感じているようだとのことであった。筆者がハウスを訪れたのはちょうど住人たちが帰宅する夕方だった。学校帰りの子どもたちは、自室に入る前にリビングにて大人たちと軽く会話を交わす。キッチンでは、料理好きの住人が夕食の準備を始めていた。彼女の小さな子は小学生たちにあやされている。その小学生らの親はまだ帰宅していない。
筆者はこれまで多くのひとり親に聞き取り調査を行ってきたが、その育児ニーズを集約すると「常に子に向きあった1対1の育児ではなく、同じ空間に誰かがいて子を見守ってくれる環境」ということになるだろう。小学校に上がると身の回りの世話は不要になるが、家で一人にしておくのは、不憫あるいは心配という意見は多い。同ハウスの居間はちょうどそういったニーズを具現化したような空間だった。
居住者同士の役割分担や生活ルールはどうか。各世帯それぞれ自炊を基本としているが、ある居住者は希望者に材料費のみで夕食を提供することをしていた。その日も、リビングの入口にあるホワイトボードには、本日のメニューと「冷蔵庫に使ってほしい野菜があれば使います」というメモが書かれていた。生活する上で気づいたことや困難が生じれば居住者同士で話しあって解決する。リビングの壁には「今月の目標」と書かれたボードが掲げられており、住人それぞれの目標が記されていた。
問いあわせは全国から寄せられており「就職に有利な首都圏に行きたいが、知らない土地での生活は不安」というケースもある。但し、業者Aでは入居希望者の全てを受け入れているわけではない。入居希望者には必ず面接を行い、経済的に自立しているか、共同生活に向いているかなどを確認する。ハウスのカラーに合わないと判断すれば、入居を断ることもあるのだ。入所者の選定や入居後の対応については、思いのほか手間がかかる。営利を追求する民間業者としては、一刻も早く空室を解消したいと考えるのが普通だが、ハウスの理念に合致しない入居者が加わればハウスの魅力は失われる。
かつて、ある民間企業が立ち上げた20室を有する母子世帯向けシェアハウスは、開設からわずか9ヵ月で閉鎖した。敗因は、入居者の選定を怠ったこと、ハウスのルールがなかった点にあると推察される。当時の関係者は、「ともに住まえば、自然と助けあいが発生すると考えていた」と語ったが、実際は住人同士のトラブルが絶えなかった。また、それを仲裁する第三者も存在しなかった。ハウスのカラーや目的を保ちつつ、いかに利益率を上げるか。これこそが、母子世帯を対象とする企業型シェアハウスの課題と言えるだろう。

■「異世帯」で共助する住まい
 ハウスTは、1995年に2組の母子世帯が東京中野区に立ち上げたシェアハウスである。それぞれ2歳の女児、4歳の男児を抱え、育児と仕事の両立に困難を感じていたことから、ともに住まい、生活の合理化を図ろうと試みた。シェアメイト(同居人)は母子世帯以外の異世帯を募った。母子のみの生活では、閉塞感が漂い、人間関係に広がりが見いだせないと考えたからだ。最終的には、彼女らのほかに、単身の男女2名と学生グループが名乗りを上げた。建物はオフィスビルを活用し、1階は駐車場、2階は台所とリビング、風呂、便所などの共有スペース、3階、4階部分は個室である。母子世帯であるBさんが月20万円で契約し、それを居住者で折半するという形式で運営していた。生活ルールの決定やトラブルの解決の際には必ず居住者会議を開いた。光熱費は月々決まった額を徴収し、余剰が出ればストックするという
方法で賄っていた。食事や掃除については確固としたルールはなく、やれる人がやるという緩やかなものであり、入浴については自然と就寝時間が早い子どもが優先されるようになった。このハウスで最も興味深いのは、居住者同士の育児のみならず、外部保育者を招き入れての育児を実践した点である。保育者は口コミで募り、ピーク時には総勢20名が無償で育児に携わった。では、なぜ、これだけの人材を無償で集めることができたのだろうか。当時、母子世帯としてハウスに居住していたCさんによると、ハウスの契約者であったBさんは、あらゆる活動にかかわっており、人的ネットワークが豊富であった。その求心力に魅せられて多くの人が集まり、一種の子育てサークルのようなものになったというのである。Cさんにハウスのメリットについて尋ねた。まず挙げられたのは育児負担の軽減である。保育所の送迎、夜間の対応を依頼すれば、残業もでき、数日の出張もこなすことができたという。続いて孤独の解消を挙げた。Cさんによると、シェアハウスに来る前は日々の生活に追われ、ゆったりと食事をする時間や大人と会話する機会がなかったという。「ハウスのリビングには必ず誰かがいて話ができる」といった環境が心の安定や成長に繋がったと語ってくれた。他方、課題としては、ハウスの理念を共有し続けることの難しさを挙げた。空室が出ると、居住者の家賃負担が上昇するため、早急に入居者を補填する必要がある。その結果、利便性と低家賃に惹かれて入所してくる者を排除することが難しくなる。「なぜ、家賃を支払って他人の子の面倒をみなければならないのか?」といった不満もあったであろう。ハウスTのように、入居者(外部支援者)→母子世帯といった一方的な支援関係では生活の共同化の継続は難しいかもしれない。例えば、異世代であっても互いの課題を補完しあう関係ならどうだろうか。
東京都内にあるシェアハウスGでは、母子世帯、中高年の単身女性、20代の単身女性2名がともに住まう。この中でも、とりわけ中高年女性と母子世帯の関係が良好である。平日、母親が夕食の準備をしているとき、あるいは不在のときに、子どもはリビングで中高年女性とともに過ごす。他方、母子世帯側が中高年女性の買い物を請け負ったりすることもあるという。以前、母子世帯は実家に身を寄せており、両親との暮らしに息苦しさを感じていたという。また、中高年女性は、ひとり暮らしの寂しさや不安の解消を求めて入所を決めた。現在、母子世帯×高齢者、母子世帯×留学生、母子世帯×父子世帯というような組み合わせでハウスの開設を計画している企業やNPOもあり、今後、その展開が期待されるところである。
 
■さいごに
 生別ひとり親向けに創設された児童扶養手当の受給件数は1998年以降右肩上がりに増加し、2008年には100万件を超えた。2010年には、児童扶養手当法が改正され、その対象を父子世帯にまで拡大している。厚生労働省は2002年に「母子家庭等自立支援大綱」を作成し、ひとり親世帯の生活貧困問題解決のための具体的な施策案を提示している。しかし、それは就労、育児、住まいなどの支援策が個別に羅列されているに留まっている。母子世帯の貧困問題は、上記の要素のミスマッチが複雑に絡みあい生じている。よって、その要素の相互関連を十分に理解し、彼女らの生活活動を包括的に捉えた支援を進める必要がある。そういった意味で、住宅の安定供給に、集住による家事の合理化、育児負担の軽減という要素を組み込むという視点は母子世帯(ひとり親世帯)の生活問題の改善に寄与するものと確信する。
かたや、住宅・土地統計調査によるとわが国の空き家率は2008年に13%に達した。空き家の活用について、規模の大きな持家をシェアハウスに転用するという手法が注目されている。こういったことを背景にシェアハウスに対する母子世帯の関心は高まりつつあるが、自分の住む地域にハウスがない、企業型のハウスは高額で手が届かない、個人で立ち上げるにしてもノウハウがなくどうしていいかわからないといった問題も多く聞かれる。確かに、個人が建物の確保やシェアメイトの選定、入居後の管理運営を担うことはあまりにも負担が重い。また、供給を市場に委ねれば、住居費は高額になりがちであるし、採算が合わなければその継続も危ぶまれる。ひとり親向けシェア居住を広く安定的に浸透させるためには、行政からの資金援助をはじめ、運営管理を手助けするNPOの存在などが不可欠になってくるだろう。
(We learn vol.721 pp6-9 より)

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