建築雑誌 2015 空き家特集 第3部空き家活用のアイデアと問題に寄稿しました

「住宅アマリの時代の住宅問題」

住宅が有り余っているのに、住宅にあぶれる人が増大しているという。ならば、余っている住宅と住宅困窮者をマッチングさせればいいのではないか。2007年に施行された住宅セーフティネット法はまさにその点をついたものと言えるだろう。だが、ことはそう単純ではない。

同法は、高齢者、障害者、子育て世帯、DV被害者など住宅困窮リスクの高いものを「住宅確保要配慮者(要配慮者)」と総称している。その特徴は、経済的困窮に加え、家族や地域との繋がりが薄く、何らかの「ケア」がなければ生活が成り立たないという点だ。求められるケアは、身体介護、日常の生活支援、メンタルケア、見守り、家事、育児など幅広い。時には「電化製品やガスコンロの使い方がわからない」、「掃除の習慣がなくゴミ屋敷化している」など、住まい方そのものが身についていないケースへの対応もある。また、それぞれが抱える課題の程度や種類は一様ではなく、それが複層化していることも多い。

それ故に、要配慮者に対する家主等からの風当たりは強い。家賃の不払いはもとより、自宅内事故や孤独死、残置物処理に近隣トラブルなど要配慮者にまつわる不安要素は山積みだ。孤独死ともなれば、原状復帰に多額の費用がかかり、しばらくの間、次の入居者を入れられないばかりか、近隣居住者は気味悪がって退去してしまう。このようなリスクを背負うくらいなら「空き家にしておく方が得策」と考える家主の心情は十分に理解ができる。つまるところ、空き家×要配慮者の解を得るためには、安定した住まいにケアをコンバインさせ、要配慮者に対する家主らからの抵抗感を取り除く必要があるのだ。では、そのケアを誰が、どのような根拠に基づき担うのか。そこが大きな課題となる。

自治体でも、遊休空き家と要配慮者をつなぐ動きが出てきている。例えば、豊島区では、いわゆる「空き家バンク」を創設し、空き家を抱える家主と要配慮者をマッチングさせる仕組みを作っている。両者の間にはNPOが介入し、入居相談や入居後の生活支援を担うという。このNPOの存在が家主に安心感を与えるというしかけだ。このほか、近年、空き家を利用して生活保護受給者の住宅確保支援を行う民間事業者が急速に増えている。この多くが、所有する、あるいはサブリースする住宅の家賃を住宅扶助の満額に設定し、食事や見守り等のケアをパッケージ化して提供することで採算を合わせる事業モデルを採用している。生活保護を活用した住宅支援事業については、貧困ビジネスのイメージや提供される住宅の質など課題は多く残るものの、これにより要配慮者の住宅問題が大幅に解消されてきたことは否定できない。

更には、福祉的な課題を持つグループ同士のシェアハウスを手掛けるなど、企業自ら空き家×要配慮者の対策に乗り出す事例が出てきた。この背景には、若者のシェアハウスが飽和状態となる中で、新たな顧客開拓に乗り出したいという企業側の意図があるようだ。いずれにしても、見守りや日常のちょっとした生活支援など、法的根拠のないケアを恒常的に、しかも、散在する地域へ運ぶとなるとかなりのコストがかかる。ここを居住者同士の互助に委ねるというのが、福祉型シェアハウスの胆となる。

例えば、母子世帯向けシェアハウスもその1つである。離婚を機に住まいを失い、その上、幼い子を抱え、仕事もなく、貯蓄もなく、頼る家族もおらず、「どのようにして新生活をスタートさせたらいいのか」と途方に暮れる女性は少なくない。企業側は、周辺の保育所事情や小児科の数とその評判、更には、母子世帯が受けられる制度情報をパッケージ化して入居相談に応じる。中には、地元NPOと連携することで、入居者のサポートに努める事例もある。ハウスとなる建物は元社員寮、木造一戸建て、商業ビルのワンフロア、ファミリー向けの分譲マンションなど多様だ。単独では、借りることが難しい、広々とした住空間が手に入る上、入居一時金も不要で、最低限の日用品は完備されており、簡単に入退去ができる。また、母子世帯ということでいらぬ詮索をされることもない。本来であれば、一つ一つ確保しなければならない住まいと育児(ケア)、そしてコミュニティが既に作りこまれたハウスに対する社会的な期待は高まる一方だ。勿論、このような住まい方は他の要配慮者にも応用可能なものとなろう。

要配慮者の住宅問題を解決するということは、住宅を基盤に生活全体をプロデュースすることに他ならない。その実現に向けて、これまで交わることのなかった不動産関係主体とNPO等の福祉関係主体、また、地域住民や行政等、あらゆるセクターが互いの経験と知恵を出し合い協働することが望まれる。その向こうに、住宅アマリの時代の住宅問題の終焉が必ずあるはずである。

建築雑誌vol.130 No.1672 2015年6月より

建築雑誌 2015 空き家特集 第3部空き家活用のアイデアと問題に寄稿しました」への2件のフィードバック

  1. Kuroko-obasan

    時代にあった着眼点が素晴らしいです。 住宅があまっているなんて、マンションの1室を買うのに、高倍率のくじ引きをクリアせねばならなかった時代があったのが嘘のようです。 現存する資産は有効に使いたいものです。 特に、弱い立場の人たちに行き届いた配慮のあるアイディアが素晴らしです。

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  2. lisakuzunishi 投稿作成者

    コメントをありがとうございます。そうですね。日本の住宅問題は、住宅不足、狭小住宅など、欠如しているってこと自体が問題となる、わかりやすい構造だったのに・・・。アマルこと自体が問題となるとは。どのようにして、うまく活用できるか、どのようにして、かしこく、縮小していけるか。その方向性によって、今後の日本の住宅政策は大きく左右されると思います。

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